Powers of Tenは、チャールズ・イームズとレイ・イームズの夫妻によって製作された9分のショートフィル。この映画は、ピクニックを楽しむカップルのショットから始まり、10のべき乗で徐々にズームアウトしてく。ピクニックをしていた公園、アメリカ合衆国から地球、天の川銀河まで・・・と、宇宙の無限に大きいものから、再びカップルへ戻り、皮膚細胞、細胞核、染色体、炭素原子、クオークと、無限に小さいものまでを見せてくれる。
9分の間に、宇宙最大の単位から最小の単位まで森羅万象を映し出し、教育的で刺激な作品。
この映像は色々なオマージュが存在する。
僕がこの作品を知ったきっかけは大学の視覚デザインの授業で見せられたことだった。というのも、この映像を制作したイームズ夫妻は、イームズチェアで有名なプロダクトデザイナーだからだ。情報をわかりやすく伝達する手本としの紹介だったと思う。
授業ではこういったデザインの良い面として戦後のアメリカのデザイン史を紹介された。あれから何度もこの映像は見返すことがあったのだけれど、詳しいことは理解していなかった。ここで、改めてイームズについて調べたことをまとめて記録しておこうと思う。
イームズと戦争
彼の作る椅子の美しい造形は、実は第2次世界大戦で軍に利用された樹脂合板の技術で作られている。イームズ夫妻は当時軍事都市だった南カリフォルニアに引っ越した後に合板の形成技術に携わった。公式のホームページには、without hurting anybody(誰も傷つけず)を目指したと書いてあり、そこでは負傷した兵士を運ぶための添え木と、軍用の航空機の部品をデザインした。ここで大量生産のプロセスを試せたことの意味は大きい。
アメリカの作り出す戦後の幸福のイメージ
イームズ夫妻は戦後アメリカの自由な消費社会とその幸福のイメージを形作るカップルの象徴でもあった。コミュニケーション資本主義に基づき、家具の図形だけではなく、雑誌や映像などのメディアを通して戦後の幸福のイメージと、自身の家具の結びつきを発信した。彼は単なる製品のデザイナーではなく、ヵ具を支点にそれを取り巻くエコシステムをデザインしていたといえる。
メディア、雑誌で多様な職業(ピカソを含む)と椅子のコーラジュを広告した。
(戦後アメリカでの現代美術の成長も、アメリカが世界で最先端だということをアピールするための政府の戦略の一つでもある。)
Powers of ten においても、登場するのは若いカップルの午後のピクニック。傍らには科学や美術の雑誌があった。
(« Nice day for a picnic » | Twin Peaks – YouTube
ツインピークスでは、休日の午後の和やかさの中にも、戦争の加害者としての悪夢が同居している。)
コミュニケーション資本主義と情報化社会
コミュニケーション資本主義はメディアが生み出す大量のメタデータの中で、新自由主義的な数の支配する社会。イームズたちの、メディアを通した生活システムのデザインは、新自由主義の技術的インフラストラクチャだとされる。大規模なメディア通信や安価で複製可能なパッケージ化された商品の流通などが、グローバル化する資本主義の中でアメリカの経済成長に貢献するシステムに成長していく。
メディアが実現する共有性に関してチャールズ・イームズは以下のように発言している。「ロシアで輝いている星は 同じく米国でも輝いている。空から見ればどの町も同じように見える。」世界中の都市や自然、人の域会を複数の大画面で展示する際の言葉だった。大量のメディアを扱う未来では東と西の区別もなくなり、人々が自由なつながりを得られる社会を思い描いていたように感じる。
イームズの作る幸福
また以下の映像はイームズ夫妻の設計したキネティックアート。まるでジョアン・ミロのドローイングのような造形をしている。
この機械は太陽光発電で動く。環境に配慮した明るい未来への関心が読み取れる。イームズはおもちゃも多数造形していて芸術的で純粋さを感じた。
新自由主義は現代の格差社会や環境問題を産む悪い性質があるが、このイームズ達のデザインにはそれを感じない。戦争にかかわりつつも、医療を中心としていたことや、上記の太陽光発電などからも、問題を解決し、世界をよりよくしようという肯定的な思想を感じ取れる。
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