ギレルモデルトロ監督の脅威の部屋8話「ざわめき」を見た。鳥の群れの形態を研究する科学者が、群れのパターンの中に死者の声を見出す話。鳥の群れに関連するオカルトはよく見る気がする。ここではその仕組みについて考える。
パターンを映し出す群れ
鳥の群れが様々な形態をとる。天敵に追われた時、群れで一つの形をつくる。物語の中では、初めは砂時計、次に球体、そして最後に、大きな鳥のシルエットと変化する様子が紹介されていた。
あんなにたくさんの鳥がいても互いにぶつかることはない。
なんだか子供の頃読んだ魚の絵本「スイミー」を思い出す。
磁気と群れ
鳥は異世界へ渡る力を持つ。これはドラえもんの映画翼の勇者たちや、ツインピークスのフクロウでも登場していた概念。
ポケモンのアンノーンも同じく、群れがパターンを作り、人の精神を情報化して異世界への扉を開いている。
渡り鳥は、自分たちの帰る場所を把握するために、地球の地磁気を感じている。これは頭の中にGPSが入っているようなもので、感覚として自分の地球上の位置を把握している。
伝書鳩は地磁気だけでなく太陽の位置も頼りにしているらしい。
鳥たちが異世界への扉を見つけられるのは、異世界と繋がった場所では磁場が乱れたり、重量異常が起きたりするからだろう。鳥やアンノーンは、見えない世界同士のつながりに集まり、それを視覚化している。
インターネットの前世は郵便のネットワークだと思うのだけど、磁気を利用して鳩が文書の伝送をしていた時代を考えると、初期のネットは生体で作られていたともいえる。
アイアムアヒーローではゾンビが皆同じ方向へ移動するけど、その方向は一定だった。
ゾンビはよく粘菌に現れる集合的な知性と類似した行動をとるが、どうやら菌類にも磁気を感じて移動するものがあるらしい。
霊媒=媒体=メディア
最近読んだ13のショックにあったホラー短編では、台風で電話線が切れたはずの電話が毎晩のようになり、死者からの電話がかかってきていた。
それは特に一人で寝ている時に聞こえてくる。
この電話と「ざわめき」が共通しているのは、科学が生んだ新しいメディアを通して死者の声が聞こえること。
昔写真は人の魂を吸い取ると言われたように、メディナには魂が宿る。lainはインターネットにいたし、貞子はビデオテープの中に生きている。
鳥は磁気と集合的なネットワークを利用して一つのメディアを生みだす。全体がディスプレイのようにanimateし、情報を映し出す力も持っている。その生きたネットワークに人の精神が保存されていたら?
僕たちの意識が、神経系のネットワークに保存され、イメージが心の中に描き出されるように…。
そしてそもそも、霧のような幽霊の見た目はプロジェクターの発明時期から現れたものであり、メディアの進化が私たちの幽霊の視覚的な像の原型でもある。
コウノトリは赤子、つまり新しい命を運んでくると言うけれど、例えば綾波レイは魂をあの世へ運ぶ鳥の化身だった。エヴァで登場する人物たちは、死ぬ前に綾波レイの幻を見る。碇シンジも冒頭、まだ会ったこともない綾波レイの幻覚を見て、瞬きするとそれが白い鳥になり羽ばたいて行った。あれは死がシンジに近づていることを示している。さらに世界に終末をもたらすエヴァシリーズも翼を持ち、攻殻機動隊でのラストシーンでネットへの接続の場面では、翼を持った航空機に狙撃され、死の直前に素子は天使の幻覚を見ている。
またベルリン天使は自分たちをghostと言うが、人の言語の中に生きていた。翼を持って。
「ざわめき」の物語について
元のドラマに話を戻すと、この物語では、子供を殺してしまった家族の幽霊と、彼らの声を聴く鳥類学者が登場する。
学者は昔子供を失ったが、その時から涙を流すことがなくなり、旦那に性行為求められても拒み続け、心を閉ざしていた。そして、研究の中で、自分も鳥のようにどこかへ飛び立っていきたいと願っていた。
鳥類の研究の一環でもあるが、夫婦の関係を回復させるために旦那は、鳥の群れの集まる孤島で暫くの間二人で暮らした。
昔その島で子供を殺し自殺した母親の幽霊を見る鳥類学者は、自身がかつて失った娘のことではなく、幽霊のことばかりに気を取られていた。せっかく関係を改善するために来たのに、ありもしない幽霊の話ばかりする嫁に旦那はうんざりしてしまう。何故、娘が死んだときは涙を流さなかったのに、幽霊の話ばかりをして関係のない家族の死は嘆くんだと。。
しかし、実際には彼女は失った娘に対しての気持ちを整理するために、幽霊の幻覚を見ていたのだと思う。虚構を通して、間接的に娘の死に向かい合おうとしていた。最後彼女は子供の幽霊を救い、子供を愛していた母親の幽霊の言葉を聞いて、涙を取り戻す。幽霊が成仏するのと同時に、彼女は娘の死を受け入れることができた。
はじめは幽霊の声が鳥たちに投影されているのだと思っていたが、実際には、学者の過去のトラウマが投影されたものだった。
この物語を見て思い出したのは、思い出のマーニーだ。マーニーは幽霊として登場する。
ざわめきでの幽霊は恐怖の対象ではなく、家族の中に居場所のない、救いたい対象だった。マーニーもまた、複雑な家庭に産まれ、主人公に救いを求めていた。
彼らを救う中で、主人公も自分の問題と向き合い、彼らとの別れの中で、現実に居場所を見出していく。
幽霊を見える人は、その幽霊と同じ問題を抱えた人。幽霊はこの場合では、死者の声を映す媒体というよりも、同じ悩みを抱えた死者と生者の心を結び、お互いが自分を映し出す場としてあるように感じた。(化物語のまよいマイマイも同じ)
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