生活が変わって数日。落ち着かない。毎日暇さえあれば本を読んでいる。
人とのいざこざに疲れてしまい、ここ数日は何も手につかない。今読んでいる小説が原因かもしれない。カズオイシグロの「忘れられた巨人」だ。記憶を奪う霧に覆われ、人々が過去を失った世界。大切な思い出を取り戻すために戦うが、記憶が戻るほど関係が少しずつ折り合わなくなっていく。僕は、読めば読むほど気が重くなってしまった。
そういえば、なんで最近ずっと本ばかり読んでいるのか、今日になって思い出した。前回、コミティアも申し込んで漫画を描こうとしていたけど、描けなくて、挫折したのだった。もっと物語を作れるように、本をたくさん読もうと思って、それで今の習慣になったのか、毎日ブログに感想だけ書いて、すっかり目的が失われていた。
…。
一人の時間になって、ようやく色々と振り返る余裕が生まれる。
忘れられた巨人を見て、自分の生活を反省することがたくさんあった。僕も、僕の過去も、少しずつ霧に覆われていくように感じる。
昔、大阪駅から東京駅へ帰る新幹線でバッグを開けると、身に覚えのない紙が折りたたまれて入っていた。疑問に思いそれを開けると、
「僕は君のことを 友達と思う」
とだけ書かれていた。その日は尊敬していた絵描きの一人に会いに、大阪へ行った帰りだった。その紙はその絵描きが書いて、僕の知らないうちにバッグへこっそり忍ばせていたのだとすぐに分かった。その人のことは本当に尊敬していたから、僕はとても嬉しい気持ちになったはずだ。こんな素敵な事をしてくれる人がいるのかと。
当時はその人はこの世界の奇跡みたいな存在だと思っていたし、星の王子さまが、砂漠が美しいのは砂漠がどこかに宝を隠しているからだと言ったように、僕もその人がどこかで生きていることがこの世界を美しくさせているとさえ思った時もあった。
でもそれから僕も歳をとって その人とも不和もあったし、もう思い起こすことも、残念ながら、この世界が宝を隠していると思うこともなくなってしまった。僕にとって、世界の輝きは今は失われている。
今はそれよりも、全て幻のようで、触れたらきっと後悔する。期待するべきではないとさえ思ってしまう。こんな考えはよくないのだけど、一度塞ぎ込むと立ち直るための希望がなかなか見えない。
友人として関係の続いている人たちは、距離もあるし、実際彼らのことをそんなに追うわけでもなく、ただ、どこか引いた目線でも、尊敬し続けられる人たち。その人たちがどういう存在か、また、僕自身がどういう存在か、曖昧なままだから、関係が続いているのだろうか…。、
そうなると、それはつまり、この関係の間にはずっと霧があったから、はっきりさせなかったから良かったという話なる。
小説では、霧が晴れた世界では、人々は不幸に見舞われていた。夫婦は過去の揉め事や罪を思い出して、互いに不信感を募らせた。
僕が昔不和を生んだのも、僕が霧を払おうとしたからかもしれない。昔は全てが素直で、純粋でいれば、それは他者の信頼を得られて、いい関係を結べると思っていたけれど、それは間違いだった。心の中にある色々な、煮詰まって、がんじがらめになったものが、霧の中から形を伴って現れたら、そんなもの、誰も見たくはない。。
でも、だからって、そのために、嘘があり続けていいのか
霧が関係を持続させているとしても、気づいたら霧が広がっていて、どこまでがこの関係のちょうどいいあんばいなのか、だんだんと判断できなくなってしまう。その人が霧の一体どのあたりにいるのか、もしかしたら、もうどこかへ消えてしまったのか、そういう不安がよぎり、余計に関係をはっきりさせたい衝動にかられることもしばしばある。
霧の中では相手の位置は確認できず、ずっと近くだと思っていた存在が、ふっと消えてしまうことなんて、よくあることだ。これはまるで、インターネットのようでもある。、
こうやって考えていると、世界が霧に包まれることと、インターネットで昨今言われている、人々がフィルターバブルに包まれていくことと、きっとあまり違いはない。僕たちは分断されだ方が幸せなのかもしれないとも思う。僕たちの大半はもう、霧に包まれ、遠くの人々も過去も見えなくなっている。東と西も、民主党支持者も共和党支持者も、僕もあの絵描きも、もう、混じり合わないのかもしれない。他者への嘘は他者の未知への無関心の現れであって、それは心の壁だ。
霧を掻き分け、他者と出会っても、そのあまりの違いに、Twitterではいざこざがよく起きているように感じる。それなら互いが互いに出会わないように、相手が何者かわからないように、心に壁を作る。それが幸せの形なのか…、いや、そんなわけないけど、多分、今はまだ壁を開く気に慣れない。考えるほど、もう忘れていた、10代の頃の、碇シンジみたいな精神が戻ってくる。
どうすれば好転するだろう…。何かいいことがあるといいけど…。何かいいこと。。。。
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